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August 2nd
2010

フォークランドで出会った旅人(6)

カテゴリー: My Falklands, Weblog, フォークランドで出会った人々


前回に引き続きM青年の話。

忽然と車内から消えてしまったM。

我々は念のため車から降り、後部座席の床や後ろの荷物スペースなども見てみましたが、やはりMの姿はなく、あるのはMのジャケットだけ。

 

「ヴォランティア・ポイントを出発する時は乗ってたもんね。ゲートの開閉(途中いくつか私有地を通るので、家畜用ゲートの開閉があります)だってやってくれてたし・・・」

「最後にMを見たのはいつだった?」

「えっと・・・あのアルゼンチンのヘリ残骸のところで車を降りた時、後ろを見たらMは眠ってたよ」

「ああ、俺も車降りた時に見た」

 

ヴォランティア・ポイントの道すがらには2箇所観光的見所があって、1つは、現地で「ストーン・ラン」と呼ばれる、大きな岩石が石の川のようになっている場所を横断するところ。もう1つは、そのほど近くのフォークランド紛争時に墜落したアルゼンチンのヘリコプターの残骸がある場所。

この時は、私の最初のフォークランド訪問でしたので、このヘリ残骸を見るために、車を降りたのでした。Mはと言えば、この時後部座席で気持ちよさそうに寝ていたので、運転手のTと私だけ車を降りてヘリ残骸がある場所に向かったのでした。

 

「まさかと思うけど・・・私たちがヘリ残骸を見に行っている間にMも車を降りて、どこかに行っちゃったんじゃ!?」

「う~ん・・・Mはほんとに話さないで静かにしてるからね。いるかいないかわからないくらいだから・・・もしかしたら我々も、彼がいるものと思ってそのまま車で来てしまったのかも知れない・・・というか、それしか考えられない・・・」

Tと私は呆然としました。

 

高緯度にあって真夏は22時過ぎまで明るいフォークランドですが、その時は3月の19時頃。既にちょっと暗くなりかけていました。

あの場所を通るのは、あの先にはわずか3家族しか住んでいないので、昼間に通るVP観光の車両を除けば、その3家族の車くらいしかない・・・しかもこんな時間だったらもう夕食時で、彼らが通る可能性もほぼ皆無・・・

あそこからスタンレーまでは徒歩だったら何時間かかるか・・・周囲は見渡す限りの荒野と山で、人家は皆無。そしてその荒野にはちょっとした台風並みの風が吹き荒れ、突然雨や雹が降ってくるような天気・・・

 

うは~!!あの場所で置いてきぼりにされたら、私だったら泣くぞ~~~(大汗)

 

「とにかくあの場所に戻ってみるよ。」

「え、私も心配だから行くよ。」

「待ってたらいいのに・・・でも、まあいいか・・・探してもらうのにも助かるし。」

ということで、来た道を引き返す私達。
Tも私も無言です。

 

すでに薄暗くなった荒野には強い風がびゅうびゅう音を立てて吹いています。
Mのジャケットは車内にあったので、きっと寒い思いをしていることでしょう。

車を1時間ちょっと走らせた頃でしょうか。
砂利道をとぼとぼと歩いてくる若者の姿が目に入りました。

「あ!Mだ!!」

車に気付いて立ち止まったMのところまで車をつけ、慌てて車を降りた私達。

「え!!やっぱりあの時車から降りちゃったの?」

「大丈夫?寒くなかった?」

慌てて矢継ぎ早に質問する私達。
しかし慌てているのは私たちだけ。
当の本人は慌てた様子も怒った様子もなく、いつものようにニコニコしています。

話を聞けば、やはり私とTがヘリ残骸を見ている最中に、目が覚めて、車を降りて外の空気を吸いに行ったのだそう。で、車のところに戻ってみたら車がなくなっていたので驚いたけど、「まあ、いつかは引き返してくるだろうし、それまではちょっとした散歩気分で歩いて帰ってみようか」と思って、そこまで歩いてきていたということでした。

運転手のTは平謝り。

でもMは、自分が勝手に降りたのが悪いんだし、第一散歩も楽しかったから気にしないで、とニコニコしています。

私はと言えば・・・

それまでMってホントに不思議な人~と思ってましたが、ここまで来るともう聖人か何かのように見えましたよ。

この厳しい天候の下で、装備も食料も何も持たない状態で、薄暗くなった荒野に置いてきぼりにされたら、普通は相当動揺するし、大抵の人だったら、運転手に不快感や怒りをぶつけることでしょう。

それが、置いてきぼりにされた経験も楽しんでいたかのように、ニコニコしてるだけなのですから・・・

そして宿に戻り、予定よりずっと遅い夕食を取りながら、ケイもMの落ち着いた様子には、ほとほと感心していたようでした。

 

そしてその翌日はついにフォークランドを離れる日。
私は来年も来るつもりでしたので、そんなに胸に迫るものはありませんでしたが、Mとすれば、きっともう来ることのないフォークランド・・・いろいろな思いが去来していることでしょう。

空港までの乗り合いバスで隣同士に座りましたが、窓の外の荒野を優しい眼差しで見つめるMに、私も声をかけることなく、無言で1時間あまりの空港への時間を過ごしました。

そして飛行機に乗り込み、最初のチリの寄港地プンタ・アレナス。
私はここで降りることになっていましたが、Mの目的地はサンティアゴ。

二人で飛行機を降り、チリの入国審査を済ませ、私は荷物をピックアップし町までのバスへ、Mは2階の出発階へと別れの時が来ました。

 

これまでの9回のフォークランド訪問で、いろいろな旅人と知り合い、その多くとアドレスを交換し、いまだに定期的に連絡を取っている人なども多い私ですが・・・

 

なんだか、Mはそういうキャラじゃないよな・・・きっとMも3年の世界一周の中でいろいろな人に出会いながら、一期一会で別れてきたんじゃないかな・・・という思いがして、Mにはアドレスを聞きませんでした。

聞けば教えてくれたのでしょうが、なんだか、一期一会でこういう素晴らしい人と別れるのも悪くないかな・・・と思ったのです。

 

そして私たちは空港ロビーで、フォークランド滞在中のことや、お互いの旅の無事などについてひとしきり語り合いました。

話している最中、Mはずっとあの優しい微笑みと眼差しを私に向けてくれました。Mもこの一期一会の出会いの時間を愛しんでくれているんだな、と思いました。

 

Mの乗る飛行機の搭乗アナウンスがありました。

「じゃ、元気で」

「この後も気をつけてね」

階段を上っていくMの姿を最後まで見送り、Mもセキュリティゲートに入る前に再度こちらを向いて手を振ってくれました。

Mが視界から消え、私も空港ターミナルから外へ出ました。

 

自動ドアが開くと、パタゴニアの強い風が吹き込んできました。

無意識で「ふう~」というため息が出てしまいましたが、私の心は本当に晴れ晴れとしていました。

 

Mのように素晴らしい旅人に出会えたことは本当に財産だったと、今でもその出会いに感謝しています。海外に出て早25年になりますが、あんなに私の心にインパクトを残した旅人は、その後も現れていません。

 

でも・・・

一期一会のつもりで別れた旅人に、思いがけない地で2度も偶然の再会を果たしている私としては、そのうちMにもどこかでまた会うかも知れないな、と思ったりもします。

長くなりましたが、私の旅のスタイルや考え方に大きな影響を与えたM青年の話はここまでになります。長いお話におつきあいくださり、ありがとうございました。

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コメント / トラックバック22件

  1. かよぱ より:

    本当にどかかで会うかもしれないですねー。
    地球は広くても、魂が近い人は少ないのでしょうしね。
    特に運動もしていない私は、多分日常のカロリーの半分は、あわてたり、誰かのせいにすることで消費している気がします。
    Mさんを見習いたいって思いました。
    でも、、、イメージですが、おやつとかあんまり食べないんだろうなぁ。無理かも。

  2. トム より:

    うぉ~
    うぇるかむばっく~
    (^u^)ノ

    そのベルギーの青年、私の方が探したいですよっ
    会ってみたいです♪
    ベルギーのチョコレートショップにいたりしないかしら(笑)
    今頃、職人かしら♪
    いろいろな妄想をさせてくれるお話でした!

  3. ラオマイ より:

    本当に素晴らしい青年との出逢いでしたね。
    旅は出逢いとはいいますが、このような青年にはなかなか出逢えないでしょうね。
    TABIさんはやっぱり凄い!と思います☆
    でも青年が無事で良かったです。

  4. どらきら より:

    暗い、狭い(これは違う?)、一人置いてきぼり・・・私ならぎゃ~んと
    泣きそう!
    Mさんの心の大きさ、すごいですね。
    本当の旅だと思います。

    もう一度会えたらいいですね!

  5. すまみ より:

    縁のある人ってホントにどこかでばったりあったりしますよね^^
    素敵なお話をありがとうございました!

  6. マツケン より:

    心のでかさ、広さが、とんでもないスケールのお方ですね。

    焼酎中心に生きているアッシとは、別次元です。

    どんな環境でも受け入れる度量の大きさ、本物の旅人さんに乾杯。

  7. ずんこ より:

    絶対に泣き叫びます。
    間違いないですね。
    ビエーーン!!ですよ、ビエーーン!!
    そんな場所に1人置いてきぼりだなんて!!

    またどこかで会いたいですよねー
    今どんな風になっているのだろう。
    うん、きっと今もこんなかんじの人なんだろうなぁ

  8. ハチコ より:

    置き去りにされちゃった場所ははずれちゃいましたが、やっぱりニコニコ楽しんでらっしゃいましたね。
    私だったらブツブツ文句言いながら泣きながら歩いているか、放心しきって歩いていると思います・・・。
    すごいな~。
    きっとおじさんになってもおじいさんになっても達観してニコニコしてらっしゃるのでしょうね。
    イライラカリカリ生きている私は少しは見習わないと(^_^;)

  9. manchot より:

    どんな状況でも、悪く考えずに、「こんなこともあるさ、きっと神様が歩くのも悪くないよと言ってくれたんだ」
    とMくんは思ったんでしょうね。

    Mさんのような考え方、生き方、今から目指してみたいです。

  10. 斎藤美香子 より:

    かよぱさんへ

    ああ・・・さすがかよぱさん。「地球は広くても、魂が近い人は少ない」だなんて、
    なんてロマンティックな表現:*:・( ̄∀ ̄)・:*
    どこかで、使わせてもらおっと(笑)。

    そうそう。おやつとか食べないイメージでした。確かに(爆)
    なんか食べ物とかテレビとか俗的なものには、あまり興味なさそうだった(笑)

  11. 斎藤美香子 より:

    トムさんへ

    オホホホ・・・トムさんに叱られると怖いから、頑張って完結させたわよ(* ̄Oノ ̄*)

    そっか、ベルギーチョコねえ・・・
    その可能性もあるよね。
    「家業を継がないと」としか聞かなかったけど、
    もしかしたらチョコレート会社だったかも(≧▽≦)

  12. 斎藤美香子 より:

    ラオマイさんへ

    ホントにいそうでいないですよね。
    一陣の風のようにさわやかで、穏やかだけど、静かな情熱を秘め、一本芯が通った旅人。

    ラオマイさんも旅の中で、素敵な旅人との出会いもあったことでしょう。
    特にラオスは人が素敵そうだから、たくさんの素敵な出会いがあるでしょうね★

  13. 斎藤美香子 より:

    どらきらさんへ

    ホントにM青年に出会って、旅のスタイルや考え方に大きく影響を受けました。

    どうやったら、あんなにいつも穏やかで、どんな時間でも楽しめるんだろう・・・と
    今でも思います。
    小さなことでせこせこ、カリカリな毎日の自分・・・まだまだM青年の境地には遠いです(汗)

  14. 斎藤美香子 より:

    すまみさんへ

    縁のある人・・・
    そんな風に言って頂けると、ホントに会えちゃうんじゃないかとワクワクしてしまいます。
    今でも強烈な印象の旅人でしたが、あの時連絡先とか聞かなかったこと、特に後悔は
    ありません。一期一会の出会いと、時間をいつくしめたのも良かったと思うので。

    お読みいただき、ありがとうございました★

  15. 斎藤美香子 より:

    マツケンさんへ

    度量の大きさ・・・マツケンさんにも、そんな同じような雰囲気を感じますよ。

    あれほど感銘を受けたのに、私はといえば、今も小さなことにカリカリ、せこせこして
    ばかりですよ。
    もっと大きく構えたいのですが・・・

  16. 斎藤美香子 より:

    ずんこさんへ

    車がなかったら、「きっと戻ってきてくれる」とは思っても、心細さいっぱいですよね!!
    戻ってきたら、文句のひとつも言いたいし・・・

    ホントにまたどこかで出会えたらいいなあ・・・
    ずんこさんも世界一周に出たら、きっとこういう素敵な旅人に出会うんでしょうね。
    というか、旅人の心にそんな強烈な印象を残すMみたいな存在になってください!!

  17. 斎藤美香子 より:

    ハチコさんへ

    そうなんですよ~。
    前記事にハチコさんから頂いたコメントを見て、「うわ!鋭い~~!!」とは
    思ったのですが、そこに反応してしまっては次の記事の面白みが半減するかと、
    先の記事では、そこはスルーしてしまいました。すみません(^人^)

    あんな生き方がしたいな~と思いつつ、私も日々の細かいことにとらわれて、
    一喜一憂して無駄なエネルギーを使っているという感じです(汗)。

  18. 斎藤美香子 より:

    manchotさんへ

    ああ・・・manchotさんの表現素敵です~:*:・( ̄∀ ̄)・:*:

    私も心ではわかっているんですが、日常の些細なことに一喜一憂して
    どたばたしてる感じで・・・もっと大きく構えたいのですが・・・。

    Mみたいな若者もいれば、若者よりすぐにキレちゃうような年配の方もいますから、
    年齢ってわけではないのでしょうね(^▽^;)

  19. たろのすけ より:

    なんか、すごく心に響いてくるいい話だわ。

    TABIさんがこれから世界を回っている最中に、本当に青年Mさんと再会、出会いそうな気がしてならないです。

  20. 斎藤美香子 より:

    たろのすけさんへ

    そういって頂けるととっても嬉しい(ノ◇≦。)

    ホントにいつか会えるといいなあと思っていたので、他の方にそんな風に言って
    もらえると勇気百倍ですね。ありがとうございます!!

    でも縁のある人とは、ホントに意外なところで再会したりしますよね。

  21. 春風駘蕩・・・って言葉が浮かんできました。
    彼の静かな穏やかさが行間からにじみ出てきますねぇ~。

    こだわらず、しかし一つ一つひと時ひと時を大切に味わってる・・・
    明鏡止水のような心で世界を見ているのでしょうか。
    こんな彼に出会えたTABIさんも凄いなぁと思います。
    下手すりゃ、なんじゃ、このぼーっとした男は?って思う人だっていそうだわ。

    心をまっさらにすれば見えてくるものがある・・・そんな気にさせてくれる彼でした。いいお話、ありがと~~!!

  22. 斎藤美香子 より:

    シャンティcocoさんへ

    全部お付き合いくださりありがとうございました(^人^)

    ホントにこんな人になりたいのですが、この歳になってもまだ角がいっぱいの私。
    あ~あ、情けない・・・

    「心をまっさらにすれば・・・」う~ん、その通りですね。
    でも最近物事を斜めに、悪い方から見てしまいがちで、自己嫌悪の連続です。

    だからたまにcoco道場に行って、いろいろ学ばせてもらってますよ(*^o^*)
    気持ちが浄化されるような気がするんですよ。やっぱり得体の知れない何かが(爆)

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