亜南極料理人の食材手配準備は、取材班の出発約5か月前から始まります。その準備過程は大きく分けて、

①滞在1.5か月分の献立を作る(出発5か月前)

②イギリス本国からフォークランドへの物資供給船スケジュール、フォークランド首都スタンレーから取材地となる離島への物資供給船スケジュールを確認(出発5か月前)

③取材クルーの人数や年齢等に合わせて、必要食材の種類や量の見積もり(出発5か月前)

④日本で手配する食材リスト、現地で手配する食材リストをそれぞれ作成(出発5か月前)

⑤現地での食材手配開始:現地の食料品店に食材の在庫があるか確認。なければ、イギリス本国から取り寄せてもらう(出発4か月前)

⑥日本での食材手配開始:食材リストを基に、食料品店・通販等で食材購入(出発4か月前)

⑦日本で購入した食材を梱包(出発4か月前)

⑧梱包した食材を国際宅急便で送付(出発4か月前)

⑨現地の食材を、現地スーパー・肉屋等に注文・購入(出発3か月前)

⑩日本から送付したDHL便、現地購入した食材の離島への到着を確認(出発1か月前)

⑪青果物・卵などの生鮮食品手配(出発直前)

というようなものがあります。

取材班食材

「5か月も前から!?」と驚かれるかも知れませんが、例えば、⑧の国際宅急便については、フォークランド到着までに、これまで最短で3週間、平均して1.5か月、最長で…なんと3か月間荷物をトラッキングしても、日本~アメリカ~南米~ヨーロッパ~ロシア・・・と世界中を彷徨った末、4か月目に紛失となったこともあり、かなり前に送付して間違いなく荷物が安着したことを、余裕を持って確認する必要があります。

さらに、1.5か月かけて漸く荷物が首都に到着しても、首都と取材地の離島間を結ぶ船は約1か月に1便しかないので、タイミングが悪いと離島に荷物が到着するのは、日本で荷物を送付してから2.5か月後、ということになります。先述のように4か月後に紛失とわかった場合、また食材を手配して、取材班出発時に持って行かなければなりません。

「取材班が出発時に持って行くって・・・最初からそうすればいいじゃない。」

と思われるかも知れませんが、日本からフォークランドへの道は遠く、途中北アメリカと南米チリで飛行機の乗換えをすることになるので、超過手荷物料金は非常に高くなってしまいます。

そして、それよりも更に厄介なのは、経由地チリでの検疫検査です。同日乗り継ぎが出来ないため、一旦チリに入国しなければならないのですが、畜産農業が主要産業である国チリは、食品の持ち込みに非常に厳しい国。

チリやニュージーランド等に行った経験がある方々なら、あの厳しい検疫検査をご存じの方もいらっしゃると思います。生肉生青果物に限らず、例えば、カップヌードルに入っている乾燥肉、レトルトカレーに入っている加工肉であっても、持ち込みは不可。少量の食料なら隠しようもありますが、税関審査では必ずすべての荷物をX線検査するので、大きな食材箱をいくつも持っているとなると隠しようもなく、良くて食材をすべて開封し、中身の確認説明・・・最悪は没収となってしまいます。

それでは、準備過程について順を追って書いていきたいと思います。

①滞在1.5か月分の献立を作る(出発5か月前)

前回書いたように、滞在先には、日本のビジネスホテル備え付け小型冷蔵庫サイズの冷凍庫が1つ、冷蔵庫が1つしかないので、1.5か月の滞在中に使える生鮮食品の総量は、ビジホの冷蔵庫2つ分ほどに限らなければなりません。大人3~4人、1.5か月分の食材といえば、かなりの量になりますので、食材の9割以上は、常温保存が利く乾燥・缶詰・レトルト等の食品ということになります。

と言っても、滞在は1.5か月、取材という重労働になりますので、何とかタンパク質やビタミンといった栄養素も確保しなければならないので、この献立を立てるのはなかなかに大変です。

②イギリス本国からフォークランドへの物資供給船スケジュール、フォークランド首都スタンレーから取材地となる離島への物資供給船スケジュールを確認(出発5か月前)

最近は首都スタンレーの食料事情も以前と比べれば格段に良くなりましたが、それでも、食料はすべて本国イギリスやチリなどからの輸入に頼っているので、本国からの次の物資供給船到着直前頃には、スーパーの棚が空になったり、在庫がない食材などもかなり出てきます。

現地調達食材については、注文後、あの食材がない、この食材がない、という話になって、必ず本国お取り寄せの必要が出て来るので、供給船のスケジュールを確認してから手配を進めることになります。

特に、主食となるお米については、現地の需要が少ないので、お取り寄せになることがほとんどで要チェックとなります。

③取材クルーの人数や年齢等に合わせて、必要食材の種類や量の見積もり(出発5か月前)

ここが一番苦労する過程かも知れません。

何せ、食べる量は人それぞれ。特に若いスタッフには、底なしの胃袋の人もいるでしょう。

予算も限られているので、食材を余らせて無駄にするのもいけませんが、それ以上に怖いのは、食料が足りなくなること。

通常我々が取材する島は、通常の民間旅客小型機が飛んでおらず、軍のヘリチャーターや船チャーターで現地入りしなければならない特別な離島。ここで食料がなくなったら、取材はおろか、生活もままならなくなります。

献立に合わせて、かなり緻密な計算をして量を見積もっていくことになります。

④日本で手配する食材リスト、現地で手配する食材リストをそれぞれ作成(出発5か月前)

日本で手配する食材のほとんどは、みりん等の調味料、インスタント・乾燥食材、常温保存可能な食材等。それでも長期滞在になりますから、献立にはなるべくバラエティーをもたせ、栄養面も考慮しなければなりません。

そのため、常日頃から、インスタント・乾燥食材などのリサーチは欠かせません。その度に思うのが、

「インスタント・乾燥食材では、日本が世界でナンバー1!」

「もしかしたら、私、日本でも指折りのインスタント食材知識人かも!」

ということです(笑)。取材中に一緒に滞在している世界中から集まる研究者たちも、バラエティー豊かな日本のインスタント食材、特に乾燥野菜には驚嘆しているようです。

現地で手配する食材リスト作成については、メーカー、商品名、個数などをはっきりさせて注文用リストを作成しなければなりません。

商品現物を見られないので、ネット等でイギリスの通販サイトの商品などを参考にしていましたが、2013年にテレ朝の「こんなところに日本人!」の取材の時に出演してくださった日本人のYさんが、2013年前後の約3年、イギリスからの旦那様の転勤に伴いフォークランドに住まわれていて、当時現地のスーパーの商品について詳しく教えてくださったので、それが大きな助けとなったこともありました。

⑤現地での食材手配開始:現地の食料品店に食材の在庫があるか確認。なければ、イギリス本国から取り寄せてもらう(出発4か月前)

前述のようにお米などの食材はお取り寄せになることが多いです。

⑥日本での食材手配開始:食材リストを基に、食料品店・通販等で食材購入(出発4か月前)

⑦日本で購入した食材を梱包(出発4か月前)

⑧梱包した食材を国際宅急便で送付(出発4か月前)

かなりの量になるので、なかなかの重労働になります。

長くなってしまったので、⑨から⑪までは次回にまわしたいと思います。今日の準備過程は特に変わったエピソードもないので、淡々とした堅い内容になりましたが、⑨~⑪については、様々エピソードもありますし、実際料理人生活に入ってからは、さらに汗と涙、驚きのエピソード満載になりますので、次回からに期待して頂ければ嬉しいです。

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