マユグロ雛
初めてのフォークランド訪問時に発見した、何故か1組の両親に育てられていたマユグロアホウドリのヒナ2羽。2羽のヒナがいつからどんな経緯で育てられることになったのか?

私はOAGでみつけた「マウント・プレサント」という場所がどこなのか調べ、それがフォークランド諸島の軍港の名前であることを突き止めました。

その当時私がフォークランドについて持っていた知識は、「イギリス軍とアルゼンチン軍が戦争をした場所」ということくらいで、フォークランド紛争当時にニュースで見た映像も、ぼんやり頭に浮かんできました。グレーの寒空の下、どこまでも続く寂しげな荒野に迷彩服の軍人たち・・・

ここまでなら、もしかしたらそのままマウント・プレサントへの興味を失い、別の場所を探し始めていたかも知れません。

ところがふとその時、数年前の何かの折に、父が「フォークランドにも一度は行ってみたいな」と言っていたことを思い出したのです。当時フォークランドを良く知らなかった私は、何のリアクションもせず、その会話はそれで終わってしまったような覚えもありました。

「あの」父が興味を持った場所なら、面白い場所に違いない!

ヒマラヤ登山家だった父は根っからの冒険好きで、世界中のワクワクするような場所を良く知っていたのです。

そこでいろいろとフォークランドについて調べ始めたところ、ペンギン5種が生息していること、主にイギリス出身の住民が2000人ほど住んでいること、などがわかってきました。

「おお!ペンギン!しかも5種も!!」

その前の年に、チリでマゼランペンギンを見ていた私の心は一気に踊りました。

しかしながら、ネットにも日本語での情報はほとんどなく、英語での情報も関連サイトも、当時はごく限られたものしかありませんでした。

それでも、現地の野生動物保護団体がガイドブックを出していることがわかり、まずはそれを取り寄せることにしました。日本語のサイトでは、フォークランドに行ったことのある方が旅行記を載せているのをみつけ、早速その方に連絡を取りました。

これまでの旅は、ほぼ自分で宿泊場所や交通手段などを手配してきましたが、フォークランドについてはあまりに情報が少ないので、現地の旅行代理店に手配を依頼することにしました。

そうこうしているうちに、現地から取り寄せたガイドブックも届き、それと合わせて行き先を考え始め、「設備の整った宿がある島に2泊、人家から5キロほど離れた、水道も電気もない簡易小屋に4泊」という旅行日程が出来上がりました。

Rookery小屋
コンテナを改造した簡易小屋

それまでも、あちこちの辺境を回ってきた私。水道も電気もない辺鄙な場所に行った経験は何度もありましたが、一人だけで何日も過ごす、という経験はなく、あのニュース映像で見た寒々とした景色の中にペンギンが何万何千といる、というのもピンと来ませんでした。

現地の旅行代理店によれば、観光客はほぼクルーズ船からの日帰りの客がほとんどで、飛行機で来て現地に泊まる観光客は少ないし、時期的にはクリスマス前後に来る人がほとんどなので、今時期(2月)は簡易小屋のある島にはまずやってこないので、ほぼ貸切は間違いない、ということでした。

「う~ん、4日間も一人か・・・。何かあったら、5㎞歩いて助けを呼びに行かないといけないのか・・・」

行く前の私は、正直、ワクワク度4割、心配度6割でした。

が、現地についてペンギンたちの群れを見た途端、その心配は完全に吹き飛び、「何万ものペンギンの中に自分だけ」という夢のような状況にひたすら歓喜感激する4日間だったのでした。

あのニュースで見た陰鬱な景色とは別世界の、「空も海もどこまでも青く、ペンギンたちで埋め尽くされた白砂の海岸は、ごみ1つなく美しく、緑の大地では羊たちが草を食み、聞こえる音は波の音と風の音だけ」という夢の世界が広がっていたのです。

Sauders島海岸
ジェンツーペンギン初体験

そんな夢のような一週間を過ごし、首都スタンレーに戻りお土産を物色していると、ある本が目に留まりました。それはフォークランドのフィールドガイドの本で、その筆者によって書かれた本は、他にもたくさんの種類があるようでした。

その本をめくり読み始めて、その前書きの最初の文に私の目は釘付けになりました。

「1959年のクリスマスイブの日に初めてフォークランド諸島を目にした私は、本能的に、自分はこの地球上でも特別の場所を見つけた、自分はここに住むだろう、と感じた。」

「本能的に、自分はこの地球上でも特別の場所を見つけた、と思った。」

これはまさに、私が初めてフォークランドを機上から見た時、降り立った時、ペンギンたちのいる離島に到着した時に、感じた心情そのままだったのです。

その日の午後には帰途に就く予定だった私は、この本と、同じ著者によって書かれた本を他に何冊か買い求め、お土産物屋の女性に尋ねました。

「この本の著者のイアン・ストレンジさんという方は、地元に住んでいる方なんですか?」

「ええ、そうよ。有名な人よ。名前の通り、ちょっと変わった人だけどね、フフフ。」

イアンさん・・・

お土産物屋のドアを開け、通りに出た頃には、

「私は近いうちにもう一度ここにきて、この人に会わなくてはいけない」

と決心していたのでした。

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